https://www.ibunsha.co.jp/books/978-475310384-3/
すごく面白くて休憩なしに一気に読んでしまいました! バトラー研究やトランスジェンダー哲学で知られる藤高さんのこれまで発表されてきたテクストからなる論集。
バトラー、メルロ=ポンティ、ラカン、サラモンといった論者の議論を駆使しながら、トランスジェンダーの身体について論じるいくつかの章は、「いや、ほんとそう、そうなんだよ!」という気持ちと、現象学や精神分析を使うとこんなふうに身体の経験を語れるのかという感動が押し寄せます。分析哲学はたぶんそういうの苦手なので……。
そして何にも増して、トランスジェンダーのことを真面目に、本気で哲学的に論じるトランスジェンダー哲学のテクストなんて日本語ではほとんどないので、こういう本が出ることが嬉しいですね。
トランスジェンダーについて語ろうとする多くのひとはトランスジェンダーの生きる現実ではなく、そのひとの空想やそのひとのジェンダー観を出発点にし、それに合うトランスの語りは利用しつつそれに合わないトランスは存在を否定するみたいなかたちになりがちで、そういうのを読むと「私は現実の話をしたいのであって、あなたの想像には興味ないんです」と感じてしまう。そんなやり方で議論に値するトランスジェンダー哲学なんてできるはずがないだろうとも思って、冷めてしまう。
藤高さんのこの本はそうではなくて、本当に真面目にトランスジェンダーの生きる現実を思考して、「トランスジェンダー哲学って、こういうのだよね!」と感じます。こういう話なら重要だし、ちゃんと聞いたり語ったりしたい。
出版社さんたちは本当にはトランスジェンダーの生に関心を持っていないひとたちがトランスジェンダーをちょうどいい題材として消費しているようなものではなく、こういうちゃんとトランスジェンダーの現実を捉えようとする本をじゃんじゃか出してほしいです。
後ろのほうで、私が書いた「くだらない話をしたい」というエッセイに言及してくださっていて、それも嬉しかったです。たぶん意図的に日本語のトランスジェンダーの語りを、学術的でないものも含めて記録しようとしてくれているのだと思う。