あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

The Cosmic Wheel Sisterhood(ネタバレ)

Deconstructeam

deconstructeamによるゲーム。私はSwitchでプレイしました。

このゲームを何ゲームと言えばいいのかわからないのですが、魔女フォルトゥナを操り、自分自身のタロットデッキを作って、悩みを相談しに来る魔女たちに占いをするゲーム、ととりあえずは言えます。

カードは手元にある絵柄(進め方次第で新しいものも手に入る)を組み合わせて作るのですが、各絵柄に四つの属性からなる魔力のようなものがそれぞれ与えられていて、出来上がったカードは使った絵柄の持つ魔力を足し合わせた魔力を持つことになります。占いの場面では、占いたいトピックが与えられたあと、ランダムにデッキからカードが引かれ、トピックが複数ある場合にはそのどれかの位置にカードを置く。すると、そのカードが持つ魔力の種類と量に応じて運命の読み方の選択肢が現れ、プレイヤーはそのうちのひとつを選んで占いの内容を確定していきます。

……と、最初はそんな感じの占いのゲームなのですが、これがやがて大きな転機を迎えます。フォルトゥナは実は未来を占う力を持っているのではなく、不確定の未来を自分の考えた通りに確定する力を持っていて、運命を読んでいるのではなく、書いているのだと明かされるのです。

これがゲームプレイ的にかなり大きくて、「占いをするゲーム」をしていたはずなのに、私は勝手にほかのひとたちの運命を決めることへの罪悪感が強すぎて、できるだけ占いをせずに済ませるプレイをする方向に。ゲームのコアと言えるシステムをできるだけ避けるプレイなんてこれまであまり経験がなかったから、ずっと緊張しているような気持ちでやっていました。

けれど、ラストではそんな私の偽善性を突きつけられることに。そう、フォルトゥナがほかの人々の運命を決定するのをどれだけ避けたとしても、プレイヤーである私がフォルトゥナの運命を決定していることに変わりはなく、そして私が「よかれ」と思って選んだ道がフォルトゥナにとって幸福であるとは限らず……。私が到達したラストでは、フォルトゥナが非常に苦しそうにしていて、そして二周目が始まるのですが、私は再びフォルトゥナを自分の好きなように動かすという気にどうしてもなれず、一周でプレイを終えました。「二周するほどには面白くない」とかではなく、「あまりに面白くあまりに印象が強すぎて、すぐには繰り返せない」という感覚です。

またこのゲームはタイトルが示すように、魔女たちが構成する女性だけのコミュニティが舞台となっているのですが、その辺りも面白かったです。ブレワイのゲルドの街とか、女性ばかりのコミュニティというのはゲームにはままありますが、そういうコミュニティって妙に性格とか目的意識とかが一枚岩すぎる感覚があるんですよね。その点、本作は政治的、思想的な対立もあるし、終盤は政治的意見が異なるものたちでコミュニティのリーダーの座を争う選挙戦が展開されたりして、一枚岩でなさがよかったです。

そのシスターフッドのなかに、女性を愛する女性やトランスの女性がいるのもとてもいい。常にそうなるのか進め方によって変わるのかわかりませんが、トランスのひとはずっとアシスタント的に助けてくれて嬉しかったです。

ただ、そのトランスキャラの描き方にはやや気になるところも。魔女として転生した以上は姿形はどうあれ女性なのだということは明言されているので、「トランジションとはすなわち「性転換」であり姿の変化である」みたいな嫌な語り口になってはいないのですが、それにしても魔法を使って一瞬で魅力的な女性に早変わりというのは、何かこう、現実のトランジションの漸進性とか、姿の変化にとどまらないトランジションの幅とか、それを通しての人格的な一貫性とか、いろいろ削ぎ落とされて単純化されている印象は受けました。原文の問題なのか翻訳の問題なのかわからないけど、いきなり口調や性格が変わるのもちょっと引っかかる。日本語だとトランジション前の一人称が(心のなかでの独白等も含めて)「おれ」で、それがいきなり「私」に切り替わるとかも、意図を測りかねたところです。

なかなか難しいと思うけど、複数回出番はあるのだし、会うたびにちょっとずつ姿が変わり、ちょっとずつ明るくなり、ラストで振り返ると大きく変わったことがわかるけれど、でもその時々には「このあいだと同じひと」と感じられる、くらいの塩梅だったらすごくよかったな、と感じます。魅力的なキャラだし、ものすごく不満があるとかではなく、「こうだったらもっとよかったな」くらいの話ですが。トウガラシデザインの服装とかはとても素敵ですね。

ところで、途中でベジタリアンのひとを含めた三人での食事のためにピザを作るミニゲームがあり、明示的にベジタリアンの話をしたあとにそれが出てくるものだから、ミニゲーム中で置かれているサラミやチーズも「きっとビーガン食材なのだろう」と判断してピザに乗っけたら、普通に肉とチーズだったらしく、ベジタリアンキャラが「ごめん、少ししか食べれない」と言い出して、「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」とやたらと動揺してしまいました。

そんなこんなで、いろんな方面から心揺さぶられるゲームでした。さまざまなプラットフォームでプレイでき、そこまで長いゲームではないので、ぜひ。