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ペーパーマリオRPG(Switch)【ネタバレあり】

ペーパーマリオRPG | Nintendo Switch | 任天堂

2004年に発売された『ペーパーマリオRPG』のリメイク作品。もとはゲームキューブなんですね。ゲームキューブって、けっきょく私は一度も触ったことがない(というか、見たことさえない)。2004年というと私が大学に入った年。だいぶん前ですね。

正直なところリメイク前の作品に馴染みもないし、あまり興味を持っていなかったのですが、この記事を見て一気に関心を惹かれてプレイし始めました。

『ペーパーマリオRPG』リメイクで“女の子として生きたい”キャラクター「ビビアン」はどう描かれるのか情報公開から推理。男の娘とトランスジェンダー女性の違い - AUTOMATON

トランスキャラが出ていると聞いてVampire Survivorsをやり、そこからの流れで『悪魔城ドラキュラ』を購入したり、ブリジットが公式トランスキャラになったと聞いて格闘ゲームは得意でないのにGuilty Gearを買ったりしている人間なので、偏見的でないトランスキャラが出ていると言われればとりあえず買ってしまいます。なので、ゲームメーカーはどんどんトランスキャラを出してほしいです。できるだけ買うので。

さて、本作はピーチ姫が旅行中に魔法のかけられた宝の地図を見つけ、マリオに送ったところから始まります。直後にピーチ姫は謎の勢力に攫われてしまい、マリオは宝の秘密を探りながらピーチ姫の救出を目指すことに。ピーチが捕まっているだけだと寂しいけれど、捕まった先でわりと活発に動き回って情報収集したりしているのがなかなかよかったです。

宝の謎を解明するには7つのスターストーンを集めなければならず、マリオは各地に散らばるスターストーンを求めて、世界を旅することになります。ノコノコたちが暮らすのどかな村、小型生物が住み着く大樹、天空の闘技場、影のような人々が集まる地下世界、豪華列車とその先にある神殿、極寒の村(むかしのRPGのラスト付近って、寒い地域になりがちですよね)、などなどと、あっちへ行ったりこっちへ行ったり忙しい大冒険。

クリボーで考古学を学ぶ大学生の女性クリスティーヌ、気弱なノコノコの男の子ノコタロウ、圧倒的な肺活量で風を起こす舞台俳優の女性クラウダ、キュートな魔女系トランスガールのビビアン、やけに渋い風貌のワイルドおじさん系ボム兵のバレルなど、個性的なキャラクターがパーティメンバーとなり、それぞれのフィールド技を活かしてギミックを攻略していく仕様で、アクション要素強めの『オクトパストラベラー』みたいな雰囲気を感じました。キャラをころころ切り替えながらいろいろやるのがわりと楽しい。

全8章構成で、一章につき3-4時間くらいだったでしょうか。最終クリア時間は30時間ちょうどあたりでした。ストーリークリアのみで、エクストラダンジョンやサブクエスト、収集要素は残っています。

全体的に絵柄や動作が可愛らしいのもいいですね。マリオというキャラクターにあまり関心が強くなかったのだけど、このマリオは可愛かった。ストーリーはけっこうダークな雰囲気で、鐘の音がなるたびにひとが豚になっていく村とか、なかなか不気味でした。

さてさて、それはいいとして、トランスガールですよ。商用目的以外ならスクリーンショットの公開にも問題がないらしいので、画像を載せますね。

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初登場時などにスクリーンショットを撮っていなかったので、第6章の豪華列車の車内です。しゃべっている子がトランスガールのビビアン。ジェンダーアイデンティティがくっきりしているタイプで「からだはオトコのコだけどこころはオンナのコ」みたいな表現をしたり、姉二人と自分をまとめて「カゲ三姉妹」と呼んでいたりします。

ただ、姉たちはまったくサポーティブではなく、特に長姉のマジョリンは「カゲ三姉妹」という呼び名を嫌がったり、ビビアンが女の子だと認めなかったり、そういうのとは無関係にただただ難癖をつけていじめたりしています。もともとは三姉妹揃って敵キャラなのですが、マジョリンから探すよう言われたアイテムが見つからずビビアンが泣きそうになっているところにマリオが通りかかって助け、その様子に惚れ込んでマリオの味方になる、という流れでパーティに加入します。

この子が、とにかくめちゃくちゃ可愛い。相手を殴りつけると拳が燃えたり、敵全体に炎魔法を炸裂させたり、わりと殺傷力の高そうな攻撃をするのですが、毎回仕草が可愛いです。

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上に「アクロバット!」と表示されているのは、技の発動時に特定のタイミングでAボタンを押すとキャラクターがポーズを決めて観客に喝采される、というシステム。このゲーム、全体が舞台上で展開されているというイメージみたいで、戦闘になるたびにこんなふうに観客が現れ、機材トラブルなども起きます。それもあって戦闘頻度のわりに若干テンポが悪いのですが、雰囲気は可愛いですね。

ビビアンは戦闘時以外には、「マリオを抱きかかえて一緒に影のなかに身を潜める」という能力を持ちます。これを使って罠を回避したり、普通にしていたら姿を現さない人物を待ち伏せしたりできます。わかりやすく便利な能力であるとともに、使うたびにビビアンがハグをしてくれるのが非常にポイントが高いです。

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トランスガールが出てくるだけでも好評価なのに、トランスガールが可愛くて、しかもハグまでしてくれるとなると、フルプライスでもお得感がすごいですね。基本的に男性キャラに興味が相対的に薄い+シスキャラに興味が相対的に薄いという傾向が私にはあるので、トランスガールはいてくれるだけでも「好き!」となりがちです。それなのにビビアンはハグまでしてくれるのだから、素晴らしいです。

トランス描写としてもちょっと変わっていて、姉たちにいじめられたりはしているものの、仲間になって以降は基本的に楽しそうで生き生きとしているのですよね。でもトランスであることは明示されている。で、脇役でなく、自分で操作できるパーティメンバー。これらを満たすトランス描写ってあまりないんですよ。Thirsty Suitors、The Cosmic Wheel Sisterhood、Time Spinner、The Last of Us 2などにはトランスキャラが出てくるけど、自分で操作するわけではない(ラスアスは多少動かすシーンくらいはあったかも)。Celesteのマデリンは主人公で公式トランスキャラだけど、製作者があとから「この子はトランスだ」と確信したという経緯もあり、作中でそんなに明示はされていない。The Missingは主人公がトランスで、かつ最後には明示されるけど、ただ「生き生き」としている感じではなく、ひたすら苦しんでいる(というのが作品そのもののテーマになっている)。Vampire Survivorsのジオヴァーナは公式トランスキャラでかつプレイアブルだけど、あのゲームはそもそも各キャラの人物とかほぼ関係ないし。

楽しそうというほど楽しそうなわけでもないけれど、例外はTell Me Whyのタイラーとかでしょうか。いや、いろんなことがめちゃくちゃ辛いと思うのだけど、「苦しんでいるひと」とだけ描くのではなく、同世代の男の子と仲良くなっていく様子とか、楽しそうな姿も描かれていたし、そこまで将来に悲観的なわけでもなかったはず。

ビビアンは明示的にトランスだけど、トランスネスそのものがテーマなわけでもないのも楽しかったですね。恋をして、自分自身で生き方を決められるようになって、そして世界を救う。何千、何万ものシスガールやシスボーイが数限りない漫画やゲームで繰り広げてきた冒険を、トランスガールが果たしているという感動があります。

ただ、ストーリー的にはどうしても最初に出会うクリスチーヌが最後まで相棒という感じで、仲間にアドバイスを求めるときにもほぼクリスチーヌが発言するし、敵キャラの解析にも毎回活躍して、印象としては「マリオとクリスチーヌの旅」になってしまいますね。とはいえ、私のなかではクリスチーヌは相棒、ビビアンは恋人、ほかの人々は仲間(バレルは先輩とか先生とかな感じもある)という扱いでした。

私のなかではビビアンが恋人なのに、ラスト付近でマリオが「ピーチ姫が好き」みたいな意思表示をし出すのが寂しかったですね。マリオだから仕方ないけれど、これがオリジナル主人公だったら、私は絶対にビビアンをロマンス対象にしていた。ジュリア・セラーノさんもそんな話してるけれど、基本的にほかの条件に大差がないならトランスジェンダーのほうが魅力的に感じてときめくんですよね。

そして、かなり熱かったのが最終決戦。1000年前に封印された闇の女王が蘇ってピーチ姫を依代にして始まる戦いなのですが、途中でこれまでの冒険で出会った人々の応援が聞こえてくる描写があります。そしてビビアンが仲間になった地域のひとたちが、マリオを「おにいちゃん」、ビビアンを「おねえちゃん」「オンナのコ」と呼んで応援するんです。

実の姉にも虐げられ、否定されてきたビビアンがマリオと出会って姉たちと敵対してまでも自分の道を貫くようになり、そのまま世界を救う戦いに参加することになってからの、世界からのこの肯定! 祝福! ビビアンにとっては単なる応援の言葉ではなく、自分の存在が正当に受け入れられたというしるしであって、そんなのもう、無敵になりますよ。ラスボスはなぜか火の状態異常が通るので、覚醒したビビアンで焼き尽くして世界を救いました。(「覚醒」とか別にありませんが)

終戦のあたりの演出は何かあるたびにこれまで行った場所を映すから、ややもったりしているのですが、ビビアンへのあの応援だけで圧倒的にお釣りがきます。

いや、本当にいいですよね。身内から虐げられたり見放されたりしたトランスガールが世界を救う話。トランスガールスーパーヒーロー小説のThe Nemesisシリーズみたいです。

私自身は「お姉さん」呼びも好きではなくてちょっとぎょっとするのだけど(そもそも呼びかけを無意味にジェンダー化しないで「そこの黒ジャケットのひと」とかにしてほしい)、ビビアンはたぶん私みたいな「確信なんてもともと持ってなかったしいまもなく、ただ男性をやっていけないことだけがわかっていて、いまは現状の社会的位置をひとまず受け入れている」タイプと違って、「小さいころから自分が女性であると確信していたのに周りがそれを否定してきた」というタイプだと思うので、きっと心強く感じたと思います。

ともあれ、そんなこんなでビビアン加入後はビビアンを中心に使いながら、メインストーリーをクリアしました。

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ゲームとしては、キャラが可愛く、全体的に楽しい雰囲気の良作ですが、ちょっとだけ気になる点も。

まず、いまだとほぼ標準実装なファストトラベルがないので、けっこうな時間を移動に使うことになります。マリオの動きが遅いことや、移動中にギミックやアクション要素がある場合があることなどがあって、これがちょっと疲れます。しかも本作はメインストーリーでもサブクエストでも、やたらと「別の町で○○してきて」が多い。場合によってはそれが連鎖してたらい回し式に話が進むこともあり、ファストトラベルのない不便をことあるごとに感じました。

それに加えて、「始まったやり取りが異様に長くなる」とか「同じ動作を何度も繰り返さないとならない」のようなギャグがかなりたくさん出てきます。男女カップルの男性側が「あいしてる」というセリフを100回言うのを聞き続けないといけないとか(セリフ送りは自動にできないので一回ごとにボタンを押します)、なかなか起きないボム兵を起こす選択をし続けるとか。一箇所そういう小ネタがあるくらいなら別にいいのですが、わりとそういうのが頻発するのがやや辛かったです。

また、サブクエスト的なものもたくさんあるのですが、そのほとんどが「○○に行って××を取ってきて」みたいなお使い系なのも、ファストトラベルがないことと相まって少し辛かったです。こういうのってコンプリートしたがるほうなのですが、今回は途中で断念してしまいました…。

描写的には女性ばかりやけに奔放な雰囲気を出しているのが少し気になりました。やたらとすぐにキスをするし、そしてパーティメンバーの女性(クリスチーヌ、クラウダ、ビビアン、チュチュリーナ)はみなキス技をひとつずつ持っている、という。男性キャラ(マリオ、ノコタロウ、チビヨッシー、バレル)は特にそういう技も言動もないんですよね。まあ昔のゲームですからね。むしろそれを考えると、パーティメンバーの半分が女性で、しかもクラウダはわりと年上っぽい雰囲気だったり、ビビアンというトランスキャラもいたりというあたりは、がんばっているのだろうなと思いました。(ノンバイナリー的な含みを感じるキャラは特にいませんでした)

まあどれもこれも、「可愛いトランスガールと旅をできる」というありあまる魅力の前では瑣末なことですよね。

とにかくビビアンが可愛いので、その点だけでもおすすめのゲームです。もっといろんなゲームでトランスキャラを動かしたいです。ゲーム制作者さん、本当にお願いします。パーティガール系ハイテンショントランスガールとギークなシスガールをころころ入れ替えながら異なる技で戦うベルトアクションとかしたいです。

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追記

ちなみにビビアンについては、上のほうでリンクした記事にもありますが、もともと日本で出た原作では今回のリメイクと同じようなトランス的なキャラクターだったのが、翻訳の際に英語版とドイツ語版でのみトランスネスがオミットされてシス女性キャラにされていたらしいです。今回のリメイクでは原作の設定に合わせる方向で翻訳もやり直したみたい。

Nintendo's Paper Mario remake confirms Vivian is a trans character

英語圏のトランスゲーマーのひとたちが「ようやく英語でビビアンが原作通りになった!」と喜んでいるみたいでした。Redditのトランスゲーマーコミュニティ(というのがあるんですよ!)でも、ペーパーマリオ発売後すぐにプレイして嬉々としてビビアンに会いに行くひとが複数人いたりしました。

海外版だけ改変するというのはいまだと批判が大きそうですが、当時は普通におこなわれていたのかな。事情はよくわかりませんが、原作でのビビアンを愛する英語圏、ドイツ語圏ユーザーにとってはその点でも嬉しいリメイクだったみたいです。

ビビアンというキャラが生まれた背景については私は知らないのですが、最初にリンクした記事にあるような「男の娘」ブームが始まりつつあったというのもあるのかな。でも「男の娘」キャラはどちらかというと自分が男性であると言うイメージがあるので、自分の心は女性だと語るビビアンと個人的な印象としてはややずれる気も。金八先生上戸彩さんがトランスの男の子を演じるなどがあって「性同一性障害」という概念が広く語られるようになったのが2001年当たりだったと思うので(私もその前後に初めて「自分もこれかも」と思うようになったりしました)、そのあたりの影響もひょっとしたらあるのかも?とまったく根拠のない空想をしたりします。