あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

『関心領域』

映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト 2024年全国公開

きのう見ました。本当に怖くて、見た直後にも「これはしばらく頭から離れないかも」と思っていたのですが、案の定ひどい悪夢を見て早朝に目が覚めてしまった。

この映画の主人公はルドルフ・ヘスとその家族。アウシュヴィッツに広くて手入れの行き届いた家を構え、庭のプールで子どもたちを遊ばせたり、夫婦で楽しくおしゃべりしたり、「幸せな家庭」を営むヘス一家。勤勉な父親ルドルフは休むことなく働き、より効率的な仕事ができるよう会議をおこない、電話で指示を飛ばす。その仕事は、アウシュヴィッツ強制収容所ユダヤ人たちを焼却処分するというもの。

この映画は、直接には虐殺の様子を見せないまま、「幸せな家庭」の風景の背後に収容所の塀が映され、煙を上げる焼却炉の煙突が見え、そして銃声と悲鳴が遠くから聞こえ続けるというかたちを取っています。それが本当に怖い。直接に描かれると鑑賞者としてはそこに虐殺されるものたちの人間性やドラマ、悲劇を見出すことができると思うのですが、直接には見えないまま淡々と処分されるこの描き方だと、本当に人間性が剥奪され、ただの「モノ」、「不用品」になっているのが生々しく感じられます。仕事としてその処分をおこない、それが評価されていくルドルフも怖いけれど、それ以上に強制収容所の隣で暮らし、そこで何がなされているかもわかっているはずなのにそこで「幸せな生活」を送っている妻ヘートヴィヒの様子が怖い。

ラストでは現代の強制収容所跡地で淡々と掃除をする清掃員の姿が映され、否応なしに、いまの私たちもまた自分の「関心領域」のなかで、何かの暴力に関心を寄せずに日常生活を営んでいることに目を向けさせられます。どうしようもなく、パレスチナや入管での虐殺や暴力を知りながら、平穏に暮らしている自分の日常のことを感じさせられる。

それに加えて私は、現実には平穏に暮らせている者である以上これは身勝手なことなのかもしれないけれど、「トランスジェンダーもその人間としての存在を『悪しきイデオロギー』へとしばしば還元されていて、だから現代でも地域によっては、あるいは今後の情勢によっては、『処分』される対象になりうるし、それを望むひとが少なからず現実にいるのを知っているし、そうなっても関心を示さないひとはいるだろう」とも感じてしまい、「撃たれたくない、焼かれたくない、そんな目に遭う仲間の話も聞きたくない」と震えながら見ていました。そのために、悪夢を見て目覚めて、眠ってもまた悪夢を見て、……で朝になってしまいました。