あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

José Medina (2012) The Epistemology of Resistance, OUP

認識的不正義についてまとまって勉強する必要があり、少し前に読んだ本。

Fricker (2007)では証言的不正義(testimonial injustice)と解釈的不正義(hermeneutical injustice)がある程度別個に語られているかと思いますが、メディナさんは証言的不正義の根底にも解釈的不正義があると論じるとともに、被抑圧集団に言葉や概念が不足するという方向性での論じ方を批判し、むしろ特権集団における言葉や概念の不足(Pohlhaus Jr.の概念を借りて「wilfull ignorance」として定式化)へと目を向けることで、特権集団における無知、そして無知であることへのメタ無知を維持するメカニズムのなかで、認識的不正義が機能していると論じていきます。

さらに、特権集団の無知が被抑圧集団への無知である以上に自分たち自身の歴史への無知にあると論じ、認識的不正義への抵抗の可能性を探っていく。

フリッカーが文学からの例示を中心にしていたのに対し、メディナは実際に起きている事件をベースにしているため、認識的不正義の現実的な切実さが強くあらわれているとともに、よりシステマティックに社会構造と集合的認識実践の関係を捉えようとしていて、十分に理解できていないところも多いけれど、非常に刺激的で面白かったです。

ぜひどこかから翻訳が出てほしい。