あれこれ日記

趣味の話とか

ハイテンションなトランジションストーリー(Sara Soler (2023) US)

Sara SolerのUSという漫画を読みました。

WITNESS THE STORY OF US :: Blog :: Dark Horse Comics

もとはスペインの漫画ですが、私が読んだのは英訳版。

エッセイ漫画で、著者サラとそのパートナーのダイアナが主人公です。ずっと男性と認識されて生きてきたダイアナが、自分はトランスジェンダーかもしれないと言い出すところから話は始まります。そこから一緒に悩み、一緒に冒険して現在に至る姿がコミカルに語られていきます。

自分をヘテロセクシュアルと認識し、それゆえにダイアナの告白に初めは戸惑っていたサラが自分はバイセクシュアルだと発見していくなど、ふたりとものアイデンティティの話になっていたりします。

…と、淡々と書きましたが、この漫画の魅力はそこではなく、その異様なハイテンションさ! シナプスたちが会議をしてセロトニンを召喚するとか、ゴジラのように火を吹きながらバイセクシュアル宣言をするとか、とにかく怒涛の勢いでギャグを織り交ぜて話が進み、会話もユーモラスだし、サラの一直線っぷりも読んでいて気持ちいい。

トランスのひとやその周囲のひとの自伝なんて言うと、「もう見飽きたな」みたいに思いがちだけれど、本作は冒頭1頁目にいきなり「ありがちトランスストーリー」を、「私たちの話はこうじゃない!」と切り捨てるところから始まるのも小気味いいです。

全編に漲るシスヘテロ家父長制に中指を突き立てるようなエネルギーと、クィアな人々を包み込む優しさが同居していて、とにかくいろんなひとに読んでみてほしい漫画です。

個人的なお気に入りシーンは、自分がトランスかもとダイアナが打ち明けようとしつつ打ち明けられずにいるときに、サラが「何? どうしたの? まさか末期がん…!? それとも実はゲイだったと気づいた!? ひょ、ひょっとして、パイナップルピザが本当は好きだとか!?」などと言っているところです。パイナップルピザ…。

なかなかされないと思うけど、ぜひ翻訳もされてほしいですね。