あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

ダグラス・ウォーク著/上杉隼人訳『マーベルコミックのすべて』(作品社)

3万冊近いマーベルコミックをほぼすべて読破した著者によるマーベルコミックガイド! これはもう、マーベルファンとしては読むしかない本です。

そう、マーベルコミックって歴史が長いうえにあのクオリティの絵で毎週たくさんの新作が公開されるんですよ。日本のコミックと違ってかなり分業体制が進んでいるからこそできることだと思います。続きものなのに途中で作画が交代になるとか普通にある。

私はマーベルコミックのサブスクに入っているのですが、あまりに膨大な作品数に、「あれ、いまのペースで計算すると死ぬまでに読み切ることはまず不可能じゃない?」と、途方に暮れたりします。なので諦めて細かなところはわからないまま好きなヒーローだけ読んでいたり。

そんななか、この本が出てくれたおかげで、マーベルユニバースでの重要な出来事や、主要ヒーローのこれまでの歴史については大掴みに理解することができました。シークレットインベージョンでノーマン・オズボーンが台頭したとか、ドクター・オクトパスがピーター・パーカーの体を支配していたスーペリア・スパイダーマン時代に起業していたとか、わかってなかった。スパイダーバース系をまとめて読んだときにスーペリア・スパイダーマン時代の話にも多少は触れたんですけどね。ヒーローを気取ってるのに出てくる作戦がヴィラン的なのばかりで周りに引かれてるやつ。ピーターが会社を起こしてピーターが潰したのかと思ってました。

あの本作は、マーベル作品の展開におけるマイノリティファンやマイノリティクリエーターの役割に注目しているのもとてもよかったです。しばしばマイノリティ視点から感想や批判を述べると、まるでコミュニティの外部から「ポリコレ」視点を持ち込んで、読みもしないのにあれこれ言ってると受け止められたりするものですが、実際は熱心なファンのなかにマイノリティがいて、「ここの描写は不自然だ」とか語ったり、クリエーター側にマイノリティがいて、「ぜひイスラム教徒のヒーローを作りたい」とか思ってたりするんですよね。ブラックパンサーの歴史におけるファンと製作者の交流の話とか面白かったです。

原著が少し前のものなので、最新の展開として語られているのはミズ・マーベルとスクイレル・ガールまで。ミズ・マーベルはパキスタンアメリカ人で、敬虔なムスリムの家庭に育っているというキャラクターですね。最近何人かいますが、もともとマーベルヒーローファンだったのが、自分自身も特殊能力に目覚めてヒーローになったキャラクターです。憧れのキャプテン・マーベルに近づきたくてブランドヘアと白い肌を求めるものの「これは自分ではない」とやめたり、シヴィル・ウォー2では未来予知を用いた予防的逮捕をよしとするキャプテン・マーベルの側について指示に従っていたものの、やがてそれが故郷のニュージャージーを守ることにつながらないと認識して憧れのキャプテン・マーベルと袂をわかったり、印象深いシーンが多い、私も大好きなキャラです。ドラマにもなってますね。スクイレル・ガールはこれをきっかけに読み始めています。

原作コミックではシークレットウォーズのあたりで終わりゆく世界を前にした各ヒーローの日々を描いたりしていて、ミズ・マーベルも最後まで地元ヒーローとして過ごしていたりしましたが、MCUだとどうなるのでしょう。そちらも楽しみです。

ミズ・マーベルは、最近だとインヒューマンだと思っていた自分がミュータントだったと発覚してアイデンティティに悩んでいたり、かと思ったらタイムスリップして過去のX-MENと出会ったりしていますね。こちらもどうなるのか。

原著が出たころや出て以降あたりの展開としては、グウェンプールのアセクシュアル/アロマンティックとしての自覚形成の話や、トランスジェンダーヒーローガールのエスカペードの誕生とX-MENへの合流(いまはほかの若手ヒーローとともにアベンジャーズアカデミーでヒーロー修行中のはず)、双極症を抱えながら、自分ひとりでどうにかするのではなく周りに支えられて生きることを選んだナディア・ヴァン・ダインアンストッパブル・ワスプ)あたりが、私のお気に入りです。グウェンプールは新作も始まっていますが、こちらの展開も気になりますね。相変わらずコマから飛び出したり、風景が小さく描かれているシーンに飛び込んで実質的に巨大化したり、好き放題しています。

とにかく、マーベルファン、特に私みたいな「好きだけど詳しくはない」というファンは読むべき本でした。