あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』

「天使」と呼ばれる存在が世界中にいる特殊設定ミステリ。手足が長く、顔がなく、骨のような翼のある不気味な天使が降臨して以来、この世界には「意図していようがいまいが、ふたりの人間を殺した者は天使に地獄へ引き摺り込まれる」というルールがもたらされています。このルールのために、もはや連続殺人事件は起こらなくなった。

……はずなのに、天使がひときわ多く生息している島で、ありえないはずの連続殺人が発生し、探偵の青岸焦(こがれ)がその謎を探ることになる。「ふたり殺せば地獄に引き摺り込まれる」というシンプルながらも独特なルールをもとに、いったい誰が誰をどんなふうに殺したらこんなふうになるのか、ロジカルに議論が作られていくのがいいですね。

その一方で、この小説では探偵という存在への問題意識もとても面白いです。放っておいても殺人犯は裁かれる。ならば、この世界で探偵とは何者であり、何のために謎を解くのか。青岸の過去や、謎を解いてたどり着いた結末がどうしようもなく切なくて、思いがけず涙ぐみそうになりながら読んでいました。