あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

ヒッチコック『白い恐怖』(ネタバレあり)

1945年に公開されたサスペンス映画。イングリッド・バーグマングレゴリー・ペックが主役です。グレゴリー・ペックって私はいちばん古くて『ローマの休日』(1953年)で見たくらいだったので、こらまで見たなかでもっとも若いグレゴリー・ペック。すごく綺麗なひとで、あんまりそういうイメージではなかったから、びっくりしました。

イングリッド・バーグマン演じる精神分析医のドクター・ピーターソンの勤め先に新しい所長ドクター・エドワーズが来るところから物語は始まります。グレゴリー・ペックの演じるドクター・エドワーズは、美しく魅力的な人物ですが、ときおり奇妙な言動をする。怪訝に思ったピーターソンが探ったところ、どうやら本物のエドワーズに成り代わった別の人物であり、しかも記憶をなくしていることがわかり、「きっと自分が本物のエドワーズを殺したに違いない」と打ち明けられます。

ピーターソンは精神分析の技術を駆使して、この人物の見た奇妙な夢を読み解くことで、この事件の謎を明かし、救い出そうとします。

この映画を見たきっかけは、授業で読んでいるカヴェルのテキストで言及されていたこと。この映画の名前が出た少しあとで「funny hatが云々」という文があって、私も受講生も何の話かよくわからず途方に暮れていたのですが、「少し前なヒッチコックの映画の名前を出しているのだし、それからの引用では?」と思って見てみたら、そのまんまの台詞がありました。意味がわかってよかった。

それはそれとして、この映画、全編にわたって繰り返しピーターソンが「女性だから感情的になっている」と言われ、言葉を軽く扱われながらも地道に自分の考察を進めて真相に近づいていくという内容になっていて、典型的な認識的不正義の事例として取り上げられそうだな、と思いました。

そして、内容的にも面白かったです。ダリが協力したらしき夢のシーンとか、二箇所ある一人称視点の映像とか、新鮮でした。『鳥』の車のシーンと同じような合成映像でふたりがスキーで移動するシーンがあって、痕跡のわからない合成に慣れているいまの目からするとちょっとシュールで、それもなんだかよかったです。