あれこれ日記

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現代思想+ 15歳からのブックガイド

青土社 ||現代思想:現代思想2024年6月臨時増刊号 現代思想+ 15歳からのブックガイド

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こちらに寄稿しています。各執筆者が一冊ずつおすすめの本を紹介しています。和泉悠さんがオースティンの『言語と行為』を紹介したりしていますね。オースティン好きとしては燃えるところです。15歳からオースティン読むの、とてもいいと思う。

私が紹介しているのはイプセンの『人形の家』です。実は『群像』で最初に書いた文章のなかで言及していて、ただそのときにはカヴェルに触れるついでに名前をあげたくらいでした。なので、私自身も好きな作品なのだけど、自分で語ったことはなかったわけで、今回初めて紹介できました。

『人形の家』といえば、以前に宮沢りえさんと堤真一さんが演じたデヴィッド・ルヴォー演出のバージョンを見たことがあって、それはかなり鮮烈な印象でした。確か真ん中にある舞台を客席が四方から囲むかたちで、舞台上にはほとんどものが置かれていなくて、そのなかでふたりのやり取りが展開していたのですよね。堤さんのいいひとそうで、周りからも「いい夫」と言われそうだけど無邪気にノーラを見下している雰囲気の演技とか、とてもよかった記憶があります。

『人形の家』は言うほどドラマティックな展開があるわけではなく、父親の亡霊が現れるとか、先王の殺人者を探って行ったら自分だったとか、そういうのはなくて、見ようによっては淡々としています。ただしゃべっているだけ。でも、そのなかで何かが確かに本人も気づかないうちにノーラを縛りつけていて、そしてノーラはそれに気づき、決別しようとする。私は文学者や演劇研究者ではないので、そういった観点からの批評はできないのですが、ただ言語哲学と共同行為論という自分に扱える道具立てを使ってそれを語るなら、『人形の家』は何よりもコミュニケーションによる支配をめぐる物語だ、と改めて読み返していて感じました。

記事では、そのあたりを語りつつ、「15歳からの」なので、なぜ私がこれを主に若い人々と想定される読者に紹介したいのか述べたりしています。「みんな読むべき」とは思わないけれど、「いま、あるいはいつか、この本を必要とするひとがいるだろう」とは思っています。

それにしても、読み直すとラストあたりを文字で読むだけでも自分の人生の節目節目のあれこれが頭に浮かんで涙ぐんだりしてしまって(私がノーラのように決然としているというわけではないけれど)、そのことにびっくりしました。いま優れた演出での舞台を見たら号泣するかもしれない。