あれこれ日記

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ももちの世界『皇帝X』(@インディペンデントシアター2nd)

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ももちの世界の新作を見てきました。

第二次世界大戦の戦争責任を問われていた人物が神の祝福を受けて日本の皇帝として君臨するようになり、以後70年に渡ってその座に収まり続けているという架空の日本が舞台。

皇帝は陰謀論に染まって中国を敵視し、「敵」から国を守るために防衛費を増額して軍備増強に努める。そんななか、神からクリスマスにその命が尽きることを知らされる。

一方、皇帝の親族であり側近でもあった父が亡くなった三人のきょうだいが、皇帝の庇護下で新たな暮らしを始める。とりわけ、真ん中の男の子であるひかるは、皇帝の孫で、無垢で孤独な凛介と映画を通じて親しくなっていく。けれど、凛介はやがて皇帝の座につくことに……。

架空の日本としつつ、現実に起きた政治的な事件を無数に織り込んで物語は展開していきます。しして凛介が皇帝の座についてから次第にあらわになるのは、皇帝という人間のかたちを取った家父長制が軍国主義と排外主義と健常主義と手を取り合い、有害な男性性を潤滑油として自らの再生産を続けている姿。ここに至って、架空の日本の物語はただ「皇帝」という架空の形象を媒介にしているだけで、根本的には現在の日本の姿そのものであることがはっきりしてきます。

そうして破滅へと突き進んでいく日本を、ももちの世界らしいかっこいい音楽、激しい効果音、詩的な台詞で盛り上げていくラストが、怖くもありすごくもあり。

また本作にはひかるの妹でろう者のあかりという女性が重要な人物として登場します。女性でありろう者であるあかりは、皇帝が続けてきた社会システムのなかにまるで居場所がない存在で、肯定の前に初めて立ったときに姉が皇帝に手話通訳をさせてほしいと請わなければ皇帝の言葉を聞く機会さえないくらいにシステムの脇に置かれてしまっている。

ブレヒトの『三文オペラ』を彷彿とさせるくらいに突然転換するラストでは、一瞬、ろう者の女性が日本の今後を決める立場になるという世界を垣間見せてくれるのですが、すぐに終幕となり、観客はこの現実の、どれだけ支持率を失おうといまだ「皇帝」が君臨している日本に引き戻されてしまう。

とても面白いお芝居で、明日のお昼が最終回だと思うので、興味があって行けそうなかたはぜひ!