[第1話]恋するワンピース - 伊原大貴 | 少年ジャンプ+
終わってしまいましたね。楽しみにしていた漫画なので寂しいです。
本作は人気漫画『ONE PIECE』の非常に変わったスピンオフ。よくあるスピンオフは作中の脇役を主人公にしたり、過去の物語をやったりみたいな外伝的なものや、登場人物たちを別の舞台におくジャンルのもの(学園ものにしたり)だと思うのですが、本作は『ONE PIECE』のスピンオフでありながら、本家のキャラはごく一部の例外的なエピソードを除くと基本的に出てきません。
じゃあ誰の話なのかというと、『ONE PIECE』キャラと同じ名前を持っている三人の高校生の話です。おとなしいのに派手な名前をつけられてしまった山本海賊王(ルフィ)くん、山本くんに恋をしていて『ONE PIECE』をきっかけに仲良くなろうとしている小山菜美(ナミ)ちゃん、そして自分を『ONE PIECE』のキャラクターだと思い込んで奇想天外な発明と周囲の迷惑を顧みない暴走っぷりでふたりを振り回す中津川嘘風(ウソップ)くん。その周りにはどこかしら『ONE PIECE』キャラっぽい要素があるがゆえに嘘風くんから『ONE PIECE』を押し付けられてしまう人々や、なんらかの思惑で積極的に『ONE PIECE』に寄せていく人々もいます。
そんな変なひとたちのどたばたと、その合間合間での山本くんと菜美ちゃんの恋模様を楽しむ漫画です。変わった作品です。
私のイチオシキャラは、わりと話が進んでから出てくるお菊ちゃん。お菊ちゃんというと、オリジナルではワノ国編で登場した「赤鞘九人男」のひとりで、凄腕の剣士でありつつ「心は女です」という台詞からトランスの女の子であることがわかる長身の美女キャラクターです。こちらも、戦いが終わったあとにナミやロビンたちと一緒にお風呂でゆったり談笑しているシーンがあったりして、同時期に出てきたトランスボーイキャラのヤマトとともに私のお気に入りキャラですね。
『恋するワンピース』のほうでは、女の子として学校に通うことを望みつつそれができず、周りからはいじめられて孤立し、髪を伸ばしこっそりと口紅を持ち歩くことで自分の心を慰めている高校生として登場します(というか、その事情を聞いて嘘風くんがお菊ちゃん認定をします)。
あまり描写はピンとこないものだったので、たぶん作者の伊原さんは取り立ててトランスのこととかに詳しいわけではないのではないかなと思うのですが、ただそれはそれとしていいキャラクターなんです。というのも、いじめの話も性別移行の話も、初登場エピソードで全部済んでしまうんですね。最後のページには女の子の制服を着て笑顔で学校に来ているお菊ちゃんの姿が描かれます。
では、それ以降はどういうキャラクターになるのかというと、率直にいうとトランスであることはほぼ関係ないんです。関係ないけど、ほかのキャラクターたちとともにやたらと濃い人物になっていく。世界政府に囚われた海賊の真似をさせてもらえるお店(?)で嬉しそうにしている様子とか、何を見せられているのかと困惑します。困惑するのですが、私のなかでのポイントは、お菊ちゃんがトランスでありながら、トランスであることとまったく別の面で変な子であることなんですね。
基本的にトランスのキャラって(特にひとりしかいないときは)、トランスであることばかりが個性と見なされて、それ以外はあまり掘り下げられなかったり、当たり障りのない性格にされていたりすることが多いように思います。でもお菊ちゃんはめちゃくちゃ当たり障りがある。そんなトランスキャラ、ほとんど見たことがなくて、本当に斬新。トランスであることって別にそれ自体は個性でもなんでもなくて、単にそうだっただけなので、本当はそのひとの個性ってそれ以外のところに宿ると思うのですが、『恋するワンピース』のお菊ちゃんはなんだかもうそれが極まっていて、別にリアリティのある描写とかは取り立ててないのですが、とても好きなキャラクターになりました。可愛いです。
本家のほうも、むかしは典型的な「オカマキャラ」を出す感じでしたが、ヤマトくんとお菊ちゃんはそういう描写ではなく、いいんですよね。ヤマトくん初登場は97巻なので追いかけていないひとがここから追いつくのは大変ですが、ぜひそちらも読んでみてほしいです。