あれこれ日記

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Citizen Sleeper (Fellow Traveler games)

Citizen Sleeper — Fellow Traveller Games

Fellow Traveler gamesから発売されているアドベンチャーゲーム。勧められてやってみたら、これがとんでもなくよかった! 来年には日本語版も出て、あと次回作の発売も予定されているみたいです。

主人公は「スリーパー」と呼ばれる、人造の体に人間の心をエミュレートした存在で、企業の所有物であり、人権も認められていません(というか、しばしば周りから人間でないもの扱いをされる)。明確な名前はないのですが、周りからは「スリーパー(Sleeper)」が名前のように使われます。

主人公はその企業から逃れ、「アイ」と呼ばれる街の掃き溜めで目覚めます。その街で、主人公は自分の生き方を模索していくことになります。

ゲームシステムがTRPGっぽいと言われているみたいですが、実際の感覚としてはゲームブックに近いかも? イベント中はテキストをずっと読んでたまに選択肢を選ぶかたちで、テキスト内で主人公は「あなた(you)」と呼ばれます。「あなたは何か言おうと思った」みたいに。

ただ、特徴的なのはダイスシステム。このゲームは「サイクル」と呼ばれる周期を繰り返すかたちで展開され、サイクルごとに体調やエネルギーが消耗していくのですが、各サイクルの初めに最大5つのダイスを取得します。街で仕事をしたり、街の探検をしたりといった作業はそのダイスを消費しておこない、ダイスの数が大きいほど成功確率が上がります。これが意外と楽しくて、なんとなく、失敗しても「リセットしてやり直そう」という感覚にはならず「きょうは調子悪い日だなー」と、ロールプレイにしてしまう。

さて、このゲーム、お話としては主人公がアイで仕事をしたり街を探索したりしながら人々と交流し、ときには自分を処分しようとする者たちから逃れたり、自分の体を長持ちさせたりするために周囲の助けを得て、サバイバルしていくのがメインとなります。そのなかで、新しいひととの出会いが新しい目的を生み出していきます。作中ではいわゆる「クエスト」が、drive=欲動として表示され、次第に主人公を突き動かす欲動が多様になっていく様子を感じられて、それも面白いです。

なかでも私が楽しかったのは、生活費を稼ぐためにバーで働いてたら店主に気に入られて改装工事を手伝うことになり、だんだんとそのお店が「二人のお店」になっていく話。きのこを使ったカクテルを作るためにきのこの胞子を見つけてきて栽培するあたりとかも、よかったです。きのこカクテルを二人で味見しているシーンとかめちゃくちゃ可愛い。

ほかにも、アイを脱出しようとしている親子とか、復讐に燃える技術者とか、アイの植物の生態を調べる植物学者とか、野良猫とか、いろいろなNPCが出てきます。私は選択を失敗したりして、何人か縁が切れてしまったけど。

初めはただ生き抜くだけだった主人公が、プレイヤーの選択によってほかの人々との繋がりのなかに生活を築いていく確かな実感があり、そしてそれがテキスト的にもゲーム的にも面白いというのが、本当に素晴らしかったです。縁が切れてしまったひとがいた寂しさや消えることのない脆弱さなども含めて、プレイ後には「いい人生だった」と思えるゲームでした。最後の大型イベントが「劇場版か」という派手さで、仲良くなったNPCが総出演するのもいいです。

ところでこのゲーム、トランス/ノンバイナリー的な観点からも面白いと思います。まずもって、代名詞がtheyのキャラが多くて(主人公もそう)、プレイしているうちにだんだんと、sheやheのキャラに出会ったら「おや、あなたはその代名詞なんですか」と思うようになっていました。もはやtheyは珍しい代名詞と認知されなくなるというか。この社会にももちろんいろんな歪みはあるけど、ただおそらく性別二元論という歪みはないのだろうなと感じられます。

それに加えて、トランス目線だと主人公がどこかトランスっぽいんですよね。自分の体への適合できなさを繰り返し語り、体から解放されたいと願い、それでも生きるために体を整えようと定期的に注射を打つ。「性別違和とホルモン注射じゃん!」ってどうしたって思いますよね。周りから同じ人間とは見られず、気味悪いものとして扱われ(相手を助けようとしているときでさえ!)、ときには人間でなく「ロボット」と扱われ、ほかのひとと同等の権利も法的には認められていない。トランスっぽいですよね。

話を進めるにつれて、いくつか大きな分岐点があるのですが、私はずっと「それでもこの社会、この体で生きていくトランス」としてプレイしていました。そのせいか、あとのほうになるとだんだんやることがなくなってdriveがなくなっていくというのも、本当なら寂しく感じそうなところなのに、「突き動かされる焦燥感によって生きるのでなく、ただゆったりと日々を暮らすようになれたのだなあ」と妙に感慨深かったです。

あとこのゲームは本当にきのこが大活躍で、たぶんそう言われて想像するのの10倍はきのこがすごいので、きのこ好きにもお勧めです。