めちゃくちゃ面白かった! 後半はほぼ一気読みです。
ジャンルとしてはクィア青春ホラー小説。「クィア青春ホラー小説って何だよ」と思うだろうけど。下のほうではネタバレしつつ紹介しますが、まずはあらすじを。
主人公のハンターは、父親の反対を乗り越えてようやく胸オペをしたばかりのトランスジェンダー少年。それでもまだ自分が十分に男性だとは感じられない微妙な気持ちを抱えながら、幼馴染のゲイブや友人のマーズに祝ってもらいます。
ところが、ある夜に事態は一変。家からいなくなった飼い犬を追いかけて外に出たハンターは、巨大な狼に襲われます。ゲイブの助けでなんとか生き延びるものの、それからハンターの体には異様な変化が起こっていきます。
トランスジェンダーとしての困難と人狼になりつつあるかもしれない体への不安のなかで、ハンターはゲイブとマーズと三人で、人狼化を阻止するためにその原因となった人狼と戦うことを決意します。
学校などでハンターに向けられるトランスフォビックな言動はけっこうきついものがあるので、そこは注意です。
この著者はもう一作出しているみたいなので、そちらも届き次第読みます。
【以下、ネタバレ】
この小説のキーとなるのは、ハンターのトランスネスと、それゆえの孤独です。中盤になるとハンターの頭に人狼からの呼びかけが聞こえるようになるのですが、ローレンスという名のその人狼は、自分自身もトランスジェンダーであると語り、ハンターへの共感を示しながら、仲間になるよう誘いかけます。
ゲイブとマーズが親友だと言っても、所詮はシスジェンダーなんだからハンターのことを理解せず、いつか離れていくのではないか。同級生たちから執拗な嫌がらせに怒りを抱えているのではないか。本当に自分のものだと思える体が欲しいのではないか。狼の体になって怒りをぶつけ、今度は私たちが彼らにやり返そうではないか。
この辺りの描写が絶妙で、絶対に乗っかるべきではない誘いでありながら、明らかに作中でいちばんハンター自身の気持ちは理解しているんですよね。他方で、孤独で、トランスフォビックな暴力に晒され、「お前たちが怪物扱いしてくるなら本当に怪物になってやる」と人狼化を受け入れたローレンスと違い、ハンターにはハンターを本当に心配し、支えようとするゲイブとマーズがいる。その狭間で葛藤するなかで、同級生からのトランスフォビックな言動は、もはや家を襲撃してペンキをぶちまけると言ったようなヘイトクライムにまで発展して、……。
と、読んでる側からしても、「もう狼になってこいつらにやり返してほしい」という気持ちと、「でもゲイブとマーズと三人で幸せになってほしい」という気持ちがないまぜになります。
ワーウルフホラーなんて古典も古典だと思いますし、感染したひとが力や血を欲し始めるみたいなのもよくあると思うのですが、そのにひと匙「トランスジェンダー同士だからこそのわかり合い」を入れてくることで、これまで読んだことのないツイストがかかっていると感じました。
人狼になった二人が体に異常を感じても医療を受けることに抵抗があるというあたりも、トランスだからこその感覚ですよね。身体の異常についてできるだけ隠そうとする。
同級生からの差別的ないじめのなかにIrreversible Damageの表紙をコピーしてロッカーに貼り付けるというのがあって、めちゃくちゃ陰湿で最悪なのですが、「あの本って特に説明なくタイトルだけ出てきて、その意味合いが読者にわかる共通理解があるんだな」と、笑いごとではないけどちょっと面白かったです。