あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

【本が出ました】『女の子のための西洋哲学入門』(フィルムアート社)

www.filmart.co.jp

いよいよ本日発売されました! メリッサ・M・シューさんとキンバリー・K・ガーチャーさんが編著者となり、計20人もの女性哲学者を集めてOxford University Pressから出版されたPhilosophy for Girlsの翻訳です。一章も省略せず全訳となっています。結果的に550頁を超える大きな本になりました。

簡単にこの本を紹介しますと、ここに集まった執筆者たちが「18歳から20歳くらいだった自分がこんなものを読めていたらよかったな」と感じるような文章を書くというスタンスで、それぞれの専門に即して哲学的な議論や観点の紹介をしているという内容です。執筆者によってスタンスはまちまちで、概説のような内容もありますし、もっと踏み込んだオリジナリティの高い議論をおこなうひともいますし、エッセイ的な読みやすい章もあります。

そういうわけなので、主要な読者層として想定されているのは20歳になるかならないかくらいの女性(例えば大学に入って哲学に興味を持ったばかりのひととか)なのですが、しかしそれよりも若い女性たち、もっと年上の女性たちでも興味を持てる内容がたくさんあると思います。論理学とか、科学哲学とか、形而上学とか、いろんな話があるので、順番通りでなく、興味を惹く章から読んでもらってもいいと思います。もちろん、女性でない読者にとっても興味深い内容がたくさんあるはずです。

トランスジェンダーの女性たちは「女の子のため」に自分が入っているか不安になるかもしれませんが、中心的な話題にしている章はないものの、意識的にトランス包摂的な説明をしている個所があったり、全体として特に読んでいて違和感を覚えるところが少なくとも私個人としてはなかったりで、安心して読める本になっているかと思います。

ところで、編者たちは、「女の子のための (for girls)」とあえてタイトルにすることで、これまで相手を軽んじるように使われてきた「女の子」という言葉をエンパワメントの言葉として取り戻すのだ、と宣言しています。子どもだけでなく、働いている女性であっても「会社の女の子たちが」みたいに言われることがありますよね。そうしたのもひっくるめて、あらゆる年代の女性をエンパワーする場として「女の子 (girls)」という言葉を取り返そう、と。ちょうど性的マイノリティたちが、罵倒の言葉として使われていた「クィア」という言葉を自らのものとして取り戻したように。この邦訳書が日本でもそうした試みの一歩になったらいいなと思っています。

さて、私は西條さんとともに監訳をしつつ、「はじめに」と「言語」の章の担当もしました。「言語」の章は、エリザベス・キャンプさんという高名な言語哲学者が執筆しています。キャンプさんは、私もよく参照するポール・グライスやデイヴィッド・ルイスなどを使いつつ、会話の「記録」には残らないけれど裏ルート的に力を及ぼす発言について論文を書いたりしているひとです。この章でも、言語的コミュニケーションのなかで、いかに裏ルート的な言語使用を駆使することで、話し手があの手この手で聞き手に集中攻撃をおこないうるか、そしていかに聞き手はそれにやり返せばいいのか、といった事柄が話題になっています。私とはやや立場が違うところもあるのですが、それでも、関心の非常に近い論者で、私自身も訳せて勉強になりました。

本書の副題は「思考する人生へ (An Invitation to the Life of Thought)」となっています。実際、この本は単にさっといろいろな解説をするというよりは、哲学的アイデアの解説をしつつ、繰り返し繰り返し自分自身のもやもやに目を向け、それについて思考していく道を一緒に歩みましょうと誘いかけるものとなっています。ぜひみなさんも、一緒に思考する人生の旅に出発しましょう。