あれこれ日記

趣味の話や哲学のこと

ICD-11の性別不合の分類についてのWHOの解説など

https://www.who.int/standards/classifications/frequently-asked-questions/gender-incongruence-and-transgender-health-in-the-icd

性同一性障害」や「性転換症」(ICDではこちらも残ってました)が第11版で「性別不合」へと名称を変え、分類も「精神・行動における障害」から「性の健康に関する諸条件」に移されました。

トランスジェンダーであること自体を一種の精神疾患と見なしていた状況から、トランスジェンダーがときに抱えうる健康上のトラブルとしての性別不合という見方になったという理解でいいのかな。ちなみにほかに「性の健康に関する諸条件」に含まれているのは、性機能不全や性交時苦痛などです。

この分類変更の目的は、近年の研究からトランスジェンダー、およびジェンダーダイバースな人々(TGD)のアイデンティティ精神疾患ではないと同意されるようになったことを反映するとともに、これまで向けられてきたスティグマを解消する、というのが第一点。それに加えて、「性の健康に関する諸条件」に性別不合を入れることでTGDの人々の医療へのアクセスを保証し、保険でカバーできるようにするというのが第二点。

しばしば「トランスジェンダーの脱病理化は医療へのアクセスの否定を含意する」と誤解されますが、WHOの説明からしても、脱病理化とセットで必要な医療へのアクセスをスムーズにすることを目指しているのがわかりますね。

大人と子どもで異なる性別不合の診断基準の説明や、ジェンダー肯定医療(これがホルモン治療と外科的手術のみを指すというのはよくある誤解)の簡単な説明もありますね。

ジェンダー肯定医療に関してはやはりWPATH(世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会)のStandards of Careを見るのがよさそう。最新版は第8版ですが、第7版は日本語訳があります。

https://www.wpath.org/media/cms/Documents/SOC%20v7/SOC%20V7_Japanese.pdf

ついでに、トランスジェンダーの健康や医療に関して包括的に扱っている査読付き論文誌にInternational Journal of Transgender Healthというのがあります。2022年時点でインパクトファクター4.6。あまりそういうのを気にする分野にいないのでわかりませんが、調べたところそこそこ高めみたい? いわゆる「キャス・レビュー」に関するレビューも複数あります。

https://www.tandfonline.com/journals/wijt21

トランスジェンダーに関する誤情報の拡散をするひとへの対応に非当事者ながら協力したいけど、単に『それは差別です』というだけでは効果が薄いというのもわかって……」みたいに語っているひとを見かけたのですが、私個人の感覚としては、そうしたひとはできる範囲でこういった正しい医療情報の拡散(信頼できる情報源への誘導や英語情報の翻訳)をしてもらえると嬉しいなと感じています。日本語だとジェンダー肯定医療の信頼できる情報はほぼなく、英語に頼らざるを得ない状況で、「調べてみてください」と伝えるだけだとすでに一定の知識があるひと以外はまずちゃんとした情報には到達できないと思うので(この点は新聞などのメディアや国内の医療機関、専門組織等がちゃんと情報発信してほしいです)。

また、ジェンダー肯定医療に関わる「トランスのひとだけになされる特殊な事柄」といった誤解を正すのも大事だと感じます。以下は、ジェンダー肯定的な外科的処置の利用者の大半がシスジェンダーだったという調査。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37285414/

「思春期ブロッカー」として知られる薬(これの使用もたぶんイメージされているより慎重になされよう推奨されていることがSOCを読むとわかると思う)がGnRHアナログ製剤という思春期早発症や子宮内膜症などに以前からすでに広く使われているものであって、取り立ててトランス向けに作られた新薬とかではない、などもあまり理解されていない気がします。

私は医学的な方面は詳しくないので、あくまで私の理解している範囲の話ですし、勘違いしていることもあるかもしれませんが……。

そんなわけで、医療上の誤情報の広がりに心を痛めているけど、何ができるかわからないという非当事者のかたは、ぜひこういった専門家の発信する信頼できる言葉を拡散してもらえたら私は嬉しく思います。